ノウハウ
訪日富裕層を呼び込むインバウンド戦略|富裕層がお金を使う5つの要素

観光庁や日本政府観光局(JNTO)が発信するデータを追っていくと、日本のインバウンド政策が「訪日客数をどれだけ増やすか」から「一人あたりどれだけお金を使ってもらうか」へと軸足を移していることがわかります。その中心にいるのが、いわゆる「訪日富裕層」と呼ばれる高付加価値旅行者です。
本記事では、公的機関の統計や国際的な旅行業界調査をもとに、インバウンド市場において富裕層とはどんな人たちなのか、何を求めて日本を訪れるのか、そして受け入れる側は何を用意すべきなのかを、専門用語をできるだけかみ砕きながら整理していきます。
インバウンド市場における富裕層とは何か|どのくらいお金を使う人を指すのか
「富裕層旅行者」という言葉は感覚的に使われがちですが、観光庁とJNTOはインバウンド市場におけるこの層について、実ははっきりとした金額の基準を設けています。
基準は「日本を旅行している間に、1人1回あたり100万円以上を国内で使う旅行者」というものです。イメージ先行の「お金持ちらしさ」ではなく、実際に使ったお金の額という具体的な数字で線引きされている点がポイントです。
訪日富裕層はインバウンド全体の何パーセントを占めるのか
JNTOが公表した調査によれば、2023年にこの基準にあてはまる旅行者は59.0万人で、日本を訪れた外国人旅行者全体2,507万人のうち、わずか2.4%にすぎません。
ところがこの2.4%の人たちが使ったお金の合計は1.0兆円にのぼり、外国人旅行者が日本で使ったお金全体5.3兆円の19.1%を占めています。つまり「人数はごく一部でも、使うお金の量は全体の約2割」という構造です。数字で比べると次のようになります。

この表からもわかる通り、人数ではわずか2.4%にすぎない層が、消費額では19.1%(約2割)を生み出している点が、インバウンド市場における富裕層の存在感の大きさを物語っています。
この伸び方は2019年と比べても際立っています。2019年の時点では約32.2万人だったのに対し2023年は59.0万人と83.2%も増えており、同じ時期に外国人旅行者数全体はコロナ禍の影響で2,507万人へと21.4%減っていました。
全体が落ち込む中で、この層だけが逆に大きく伸びているのです。使われたお金の伸び率も50.6%増で、日本全体の伸び率10.2%増、世界全体の同じような旅行者による消費の伸び率17.6%増のどちらも上回っています。
どこの国からの富裕層旅行者がインバウンド市場を支えているのか
2023年の実績を国・地域別に見ると、お金を使った金額の上位3か国は中国(23.0%)、アメリカ(16.3%)、台湾(13.1%)です。
人数の割合でも中国(24.6%)、アメリカ(16.5%)、台湾(12.7%)とほぼ同じ順位になっており、アメリカやヨーロッパ・オーストラリアなど飛行時間の長い国からの旅行者と、アジアの近隣国・地域の富裕層の両方が、日本のインバウンド市場を支える二本柱になっています。
富裕層旅行者がインバウンドの旅で求めているものとは
数字だけを見ていても、富裕層旅行者に選ばれる体験は作れません。日本政策投資銀行(DBJ)と公益財団法人日本交通公社(JTBF)が共同で行った調査は、一般的な旅行者との比較を通じて、この層に特有の心理を明らかにしています。
インバウンド富裕層が重視する「自分を成長させる旅」と「本物に触れる旅」
DBJ・JTBFの調査では、「自分自身の成長につながるかどうか」と「本物らしさ(現地の暮らしや文化にどれだけ深く触れられるか)」の両方を高く評価した回答者の割合は、日本での消費額が100万円未満の一般的な旅行者で52.2%だったのに対し、100万円以上の富裕層旅行者では68.0%にのぼりました。
旅行の動機を数値で比較した調査でも、「新しい体験を通じて自分を成長させたかった」「普段できないことに挑戦してみたかった」という回答は一般旅行者より17%多く、「現地の人との交流を通じて人脈を広げたかった」は39%も多くなっています。さらに「周囲から注目されたり認められたかった」は49%多く、「日本に来たこと自体が自分のステータスになる」は32%多いという結果も出ており、周りから認められたいという気持ちが強く表れているのも特徴です。
富裕層は「決まりきった体験」より「特別な体験」にお金を払う
体験の選び方にも明確な違いがあります。追加料金のかからない、決まりきった内容の体験プログラムを選ぶ割合は、一般的な旅行者では42.8%だったのに対し、富裕層旅行者では27.0%にとどまり、代わりに特別な体験にお金をかける姿勢が強く表れています。
通常料金より50%以上高くても、質が高く思い出に残る体験をしたいと答えた人の割合は、一般旅行者の5.7%に対し富裕層旅行者は21.0%と、約4倍の開きがあります。
また、観光地の環境や文化財を守るための費用を負担してもよいと答えた割合も、一般旅行者の68.2%に対し富裕層旅行者は86.9%と高く、混雑を避ける方法についても、一般旅行者が「人の少ない時間帯を選ぶ」という節約型の工夫をするのに対し、富裕層は「事前予約」や「貸切」でお金を払ってでも確実さを求める傾向があります。
なお、日本の食事や歴史、治安の良さといった魅力はどちらの層からも高く評価されており、これらは富裕層だけを特別に惹きつける決め手にはならない、という点も実務上おさえておきたいポイントです。
インバウンド市場で富裕層を惹きつけるために地域が用意すべき5つの要素
観光庁は「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりアクションプラン」という政策の中で、富裕層旅行者を受け入れるための課題を5つの要素に整理しています(観光庁の資料ではこれらを「ウリ」「ヤド」「ヒト」「コネ」「アシ」と呼んでいますが、本記事では内容がわかりやすいように言い換えて紹介します)。
おもてなしの気持ちだけでは不十分で、この5つの要素が地域全体でかみ合って初めて、インバウンド市場の中で富裕層に選ばれる観光地になります。

この5つの要素は、どれか一つだけを強化しても効果が出にくく、地域単位で連動させて初めて機能する点がポイントです。
富裕層向けの特別な体験づくりに必要な視点
「体験・コンテンツ」の核となるのは、一般には公開されていない文化財や自然、人への特別なアクセスです。普段は非公開の文化財の特別公開、寺院の住職による直接の説明、人間国宝や名工の工房を貸し切って訪れるといった、専門家が同行するプログラムがその代表例です。
富裕層旅行者は、ただ見るだけの受け身の観光ではなく、その道の人との対話や、きちんとした裏付けのある知識に触れる体験にこそお金を払う傾向があるため、本物らしさと希少性の両方を満たすことが求められます。
富裕層向けの宿泊施設と接客人材の育て方
宿泊施設については、外資系の高級ホテルを誘致するだけでなく、一棟貸しのヴィラや古民家を改装した宿泊施設のように、その地域らしさを空間そのものに落とし込んだ施設が評価されています。
接客の面では、一方的にかしこまった対応をするのではなく、旅行者の文化的な背景や興味を踏まえて旅程を柔軟に調整できる、対等な立場のコンシェルジュやガイドの存在が鍵を握ります。
観光庁の「宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドライン」でも、家族経営的なやり方から脱却し、働く人の環境を改善しながら人材育成に投資し続ける体制づくりの重要性が指摘されています。
海外との販路づくりや移動の快適さについても、世界的な高級旅行代理店ネットワークへの参加やJNTOの海外営業部門との連携、専用車やヘリコプターによるストレスのない移動手段の整備が、体験全体の満足度を最終的に左右する要素になります。
世界の富裕層旅行のトレンドとインバウンド市場のつながり
日本国内だけの視点で富裕層向けの体験を考えると、世界の流れとずれてしまう恐れがあります。世界50か国以上、2,400名を超える旅行アドバイザーを対象にした、世界的な高級旅行代理店ネットワーク「ヴァーチュオソ」の調査は、日本のインバウンド戦略づくりにそのまま活かせる内容になっています。
世界の富裕層が求めるのは「贅沢さ」より「心が満たされる旅」
ヴァーチュオソの調査では、世界の富裕層旅行者が求める価値が、「贅沢そのもの」から「意味があり、心や体が回復するような旅」へとはっきり変化していることが示されています。
こうした流れの中で、日本はイタリアに次ぐ世界第2位の旅行先として高く評価されており、東京だけでなく京都のような文化都市への関心も急速に高まっています。
ヴァーチュオソに加盟するアドバイザーの45%が「最上級クラスの旅行」への需要が増えていると答えており、その中身は、専用車での送迎、ミシュランの星付きレストランに匹敵する食事、現地での急な要望にもその場で対応できる手配などが、途切れることなく組み込まれている旅行です。
値段の高さそのものよりも、面倒な手配や待ち時間から解放され、滞在の質とプライバシーが確実に守られることに、一番の価値が置かれています。
富裕層は混雑を避け、地域への貢献にもお金を払う
混雑した観光地を避け、プライバシーをしっかり確保することは、富裕層旅行における最も重要な条件のひとつです。観光客が集中しすぎることで起こる混雑や環境への負担(オーバーツーリズム)への懸念から、比較的観光客が少ない時期をあえて選び、事前予約による入場の確約や、施設をまるごと借り切ることを求める動きが強まっています。
同時に、環境や地域社会への貢献を意識した消費行動も定着しつつあり、DBJ・JTBFの調査で示された「観光資源を守るための費用負担に86.9%が賛成している」という結果とも一致します。
快適さを我慢する節約型のエコ活動ではなく、正当な対価をきちんと支払うことで地域の資源を長く守っていく、質の高い社会貢献のかたちが、富裕層旅行者の行動として定着しているのです。
インバウンド市場で富裕層需要に取り組むうえで押さえておきたいポイント
ここまで見てきた統計や心理の分析、そして受け入れのための5つの要素を踏まえると、インバウンド市場で富裕層需要に取り組む事業者や地域が意識すべきポイントが見えてきます。一つの施設やサービスだけを良くするのではなく、地域全体を巻き込んだ仕組みづくりが成果を左右します。
一つの施設で完結させず地域全体でお金が循環する仕組みをつくる
観光庁が進めているモデル観光地の取り組みでは、宿泊施設の中だけでお金が使われて終わる状態を避け、宿泊をきっかけにして地域の飲食店や工芸品づくり、体験プログラムを提供する事業者へとお金が循環していく仕組みが重視されています。
ひとつの施設だけが立派になっても、地域全体としての受け入れ力が伴わなければ、富裕層旅行者が求める「本物らしさ」のある体験は実現しません。宿泊、飲食、体験、交通に関わる事業者が同じ方向を向いて連携できるかどうかが、その地域の競争力を左右します。
高い価格設定は混雑対策としても意味がある
富裕層向けに価格を高めに設定し、事前予約制で人数を制限することは、単に利益を増やすためだけの手段ではありません。観光地への負担を抑えながら経済的な効果を高める、混雑対策としても機能します。
受け取った代金の一部を文化財や自然環境を守るために使う仕組みを組み込めば、訪れる人にとっては価格の高さに納得感が生まれ、地域にとっては資源を長く守るための資金が確保できます。
インバウンド市場における富裕層向けの取り組みは、目先の高単価な消費を獲得するだけでなく、その地域が長い目で見て観光地としての魅力を保ち続けるための戦略でもあるのです。
訪日観光客の集客はAXIA Promotion & Trading Philippines Corporationへお任せください
訪日外国人の中でも、フィリピン人旅行者は急成長を続けています。2025年の訪日客数は88万5,100人(JNTO)に達し、SNS利用時間が世界最長水準であることから、現地インフルエンサーの発信が訪問先選びに直結しやすいのが特徴です。
AXIA Promotion & Trading Philippines Corporationは、訪日旅行者に向けたインバウンドサポートを提供しています。例えばフィリピン現地インフルエンサーを活用した旅行前のPRから、英語・タガログ語などの多言語対応のSNS運用、来店後の口コミ・リピート促進まで一括支援。「外国語での発信方法がわからない」「来店してもらっても取りこぼしている」とお感じの事業者様は、ぜひご相談ください。
出典
JNTO「訪日の高付加価値旅行市場は消費額・旅行者数ともに大幅増加」
https://www.jnto.go.jp/news/press/20250611.html
JNTO「海外富裕層に響く、高付加価値な体験開発に必要な3つのポイント」
https://www.jnto.go.jp/projects/regional-support/resources/3875.html
観光庁「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり事業(アクションプラン)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/inbound_kaifuku/kofukakachi/kentoiinkai.html
観光庁「訪日旅行での高付加価値旅行者の誘致促進|インバウンド回復戦略」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/inbound_kaifuku/kofukakachi.html
観光庁「宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドライン」
制度概要:https://www.mlit.go.jp/kankocho/page06_00013.html
ガイドライン本文PDF:https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001583232.pdf
JTBF「特集2 インバウンド高付加価値旅行者の消費行動と意識・価値観に関する考察」
https://www.jtb.or.jp/tourism-culture/bunka267/267-03/
JTBF「特集1 誰が本当の顧客か」(福永香織)
https://www.jtb.or.jp/tourism-culture/bunka267/267-02/
JTBF「専門家帯同訪日ツアーによる高付加価値旅行の考察」
https://www.jtb.or.jp/researchers/column/column-hvt-kakishima/
松本市「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりモデル観光地に選定されました」
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/76/105166.html
松本市「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりモデル観光地」 https://www.city.matsumoto.nagano.jp/

執筆者
金田 大樹
鉄鋼専門商社や株式会社ネオキャリアのフィリピン現地法人での勤務を経て、リサーチ事業にて起業。中堅~大手の調査会社やコンサルティング会社のリサーチのプロジェクト管理を行った。その後、AXIA Marketing(アクシアマーケティング)株式会社を設立し、代表取締役に就任。フィリピン市場の成長を受けて、「AXIA Promotion & Trading Philippines Corporation」を立ち上げ。上場企業をはじめ、多くの企業の成長を「価値ある情報提供力」でサポートしている。
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