2026-06-29
ノウハウ
【2026年最新】フィリピンの就労ビザ・在留資格「9G」とは?取得フローと費用を徹底解説

「フィリピンに駐在員を送りたいが、9Gビザという在留資格は結局何から手をつければいいのか分からない」――この相談は、進出を検討する日系企業の担当者から最も多く受ける質問のひとつです。9Gビザはフィリピンで報酬を得て働くための事前手配就労ビザ(在留資格)で、外国人雇用許可証(AEP)とセットで初めて機能します。
さらに2026年6月には、AEPの審査体制そのものが大きく変わりました。
本記事では、現地での実務経験と公的機関の発表情報をもとに、9Gビザの基本構造から最新の制度変更、取得フロー、費用、退職・帰任時の注意点までを順序立てて解説します。
9Gビザと在留資格・AEPの関係を整理する
9Gビザの正式名称はPre-Arranged Employment Visa(事前手配就労ビザ)で、フィリピン入国管理局(BI)が発行します。ただし9Gビザは単独では機能しません。
その前提として、労働雇用省(DOLE)が発行する外国人雇用許可証(AEP)を先に取得する必要があります。
AEPは「この外国人をこの職務で雇うことに労働市場上の問題がない」という労働雇用省の許可であり、9Gビザは「その許可を前提に入国・滞在してよい」という入国管理局の許可です。
順序を誤って先にビザ申請だけを進めてしまう企業が後を絶ちませんが、必ずAEPが先、9Gが後という順番を踏む必要があります。9Gビザ自体の有効期間は雇用契約の期間に応じて1年から3年で発行され、契約が継続する限り更新を重ねることができます。
2026年6月の大転換:AEP審査がDOLE本部に一元化
ここが2026年に9Gビザを検討するすべての企業が最初に押さえるべき変化です。
労働雇用省は2026年6月8日付の行政命令第199号、および6月11日付の部門命令第248-B号を発出し、それまで各地方事務所が個別に担っていたAEPの受付・審査・発行業務を、6月9日付でDOLE本部のローカル雇用局(BLE)へ完全に一元化しました。
地方事務所はAEPの新規申請・更新申請の受付を即時停止し、6月8日時点で未決だった案件もBLEへ順次移送されています。
労働雇用省はこの一元化を、地域ごとの審査基準のばらつきを解消し労働市場テストの運用を統一するための措置と位置づけていますが、申請が本部に集中することで処理の滞留が発生しやすい状況にあるのも事実です。
これまで「3〜4週間」とされていたAEPの標準処理期間は、移行期においてはさらに延びる可能性を前提にスケジュールを組む必要があります。
9Gビザ取得までの5ステップ
実務の流れを正しく理解しておくことは、スケジュール遅延を防ぐうえで欠かせません。下の図は、TIN(納税者番号)取得からACR I-Card(外国人登録証)受領までの標準的な5ステップを示したものです。

それぞれのステップには明確な前後関係があります。まずBIRの管轄税務署でTINを取得し、これを前提にDOLEへAEPを申請します。AEPの本承認には数ヶ月単位の時間がかかるため、その間の現地就労を可能にする暫定就労許可証(PWP)を入国管理局に申請するのが一般的な実務です。
PWPはAEPまたは9Gビザの申請受領書(Official Receipt)を根拠に発行される暫定的な許可証で、有効期間は3ヶ月、1回に限り3ヶ月の延長が可能です。AEP承認を待つ期間だけでなく、AEP取得後に9Gビザの承認を待つ期間にも申請できるため、合計で最長6ヶ月程度、本承認待ちの間の合法的な就労をカバーする役割を持っています。
AEPが下りたら15日以内に9Gビザの正式申請へ進み、写真撮影・指紋登録(バイオメトリクス)とBI面接を経て、最終的にACR I-Cardが交付されて手続きが完了します。
ACR I-Cardはフィリピン国内での身分証明書として機能するプラスチックカードで、現地での銀行口座開設や各種行政手続きの際に提示を求められるため、9Gビザ取得後の生活基盤を整えるうえで欠かせない最終ステップです。
取得にかかる費用の目安
費用は申請年数や案件の状況によって変動しますが、おおよその目安は以下の通りです。

これらに加えて、求人広告の新聞掲載費や行政書士・現地代理人への委託費用が発生するのが通常です。一律の「9Gビザ取得費用」として案内されている数字には、AEP分が含まれていないケースも多いため、見積りを取る際はAEP・PWP・9G・ACR I-Cardの4つの費目が個別に積算されているかを必ず確認してください。
2025年規則(DO 248)で何が厳しくなったのか
2025年1月21日に公布され、同年2月9日に施行された部門命令第248号は、現地フィリピン人の雇用機会を優先する「Filipino First」の方針を、より具体的な手続き要件に落とし込んだものです。2026年に9Gビザを準備する企業が特に注意すべき点は4つあります。
第一に、雇用契約を締結してから15暦日以内にAEPの正式申請を行うという期限です。この期限を過ぎると申請が却下される、あるいは不法就労とみなされるリスクが生じるため、契約締結のタイミングから逆算した書類準備が必須になります。
第二に、労働市場テスト(LMT)の強化です。一般紙への求人広告掲載とDOLEの求人プラットフォームへの掲載を組み合わせ、45日間有効な公示を行うことで、その職務に適格なフィリピン人がいないことを示す必要があります。
第三に、経済需要テスト(ENT:Economic Needs Test)の新設です。これは外国人を雇用することが労働力不足や産業上のニーズに基づく合理的な経済的必要性によるものであることを、業界レポートやPEZA・BOIの認定証などの根拠資料で示すことを求めるもので、LMTと並ぶ新規則の柱の一つです。
第四に、実習研修プログラム(UTP)の提出です。外国人1名を雇用する場合、後任候補となる複数の現地スタッフを登録し、技術移転の実績をビザ更新のたびに示すことが求められます。なお、会社の定款や年次総会報告書(GIS)に正式な役員として記載されている場合は、LMTの一部が免除される優遇措置があります。
PEZA登録企業なら47(a)(2)ビザという選択肢もある
製造業やITなど、フィリピン経済特区庁(PEZA)や投資委員会(BOI)の登録企業として活動する場合、9Gビザとは別に「特別非移民ビザ[47(a)(2)ビザ]」という選択肢があります。一般にPEZAビザと呼ばれ、ACR I-Cardの取得義務や出国許可証(ECC)の手続きが免除されるなど、9Gビザにはない優遇措置が付いています。
なお、本ビザは2021年11月の制度改定により正式名称が「PEZA Visa(PV)」に変更されており、実務上は今も「47(a)(2)ビザ」という旧称が広く使われています。現地代理人とやり取りする際はどちらの名称でも通じますが、最新の申請書類ではPEZA Visaの表記が使われる点を知っておくと混乱を避けられます。

一方で、対象企業の全従業員数に対して47(a)(2)ビザ保有者が占めてよい比率は最大5%に制限されており、また初期発行は最大2年、1回の更新を含めて通算最長4年という滞在期間の制約もあります。
製造拠点の立ち上げ初期に日本人マネージャーやエンジニアを一気に投入しようとすると、この5%枠を簡単に超えてしまうため、PWPの併用や段階的な着任スケジュールの設計が必要になる場面が少なくありません。
帰任・転職時に見落とされがちなダウングレードとECC
任期満了で帰国する場合や現地で転職する場合、入国時の手続き以上にトラブルが起きやすいのが「出国前」の手続きです。雇用契約が終了する時点で就労資格を観光ビザへ切り替える「ダウングレード」の申請が必要になり、これが完了するとパスポートに出国命令(OTL)が記載されます。
原則として9Gビザ保持者は59日以内、PEZA Visa(旧47(a)(2)ビザ)保持者および5年以上連続して滞在した外国人は15日以内に出国しなければなりません(運用は個別案件により変動するため、最新情報は現地代理人に確認することを推奨します)。
さらに、フィリピンに6ヶ月以上滞在した外国人は、出国前に入国管理局のオフィスで出国許可証(ECC)の承認を取り付ける必要があります。ECCは空港のカウンターでは取得できず、申請から発行まで数日から1週間程度かかるのが一般的です(窓口の混雑状況や個別案件によって変動するため、正確な処理期間は申請窓口で確認することをおすすめします)。
スケジュールに余裕を持たせる意味でも、出発日の2週間前を目安に申請を完了させておくのが安全な実務とされています。
これらの手続きを怠ると、空港での出国拒否や将来の再入国制限につながるおそれがあるため、退職・帰任が決まった時点で逆算したスケジュールを組むことが欠かせません。
同伴家族のビザはどうなるのか
駐在員本人が9Gビザを取得すると、配偶者および21歳未満の未婚の子についても、本人のビザ承認から一定期間内に入国・申請することで同様の資格を得ることができます。
家族分の9Gビザにも個別の申請料とACR I-Card発行料がかかるため、世帯全体での移住コストを見積もる際には人数分の費目を漏れなく計上しておく必要があります。
なお、配偶者がフィリピンで報酬を伴う就労を行う場合は、配偶者自身についても別途AEPの取得が必要になる点も見落とされがちな実務ポイントです。
よくある質問
Q. 9Gビザだけ持っていれば現地で働けますか。
A. いいえ。9Gビザは「入国・滞在」を認めるものであり、「就労」そのものを認めるものではありません。実際に報酬を得て働くには、DOLEが発行するAEPが別途必要です。両方が揃って初めて合法的な就労が成立します。
Q. AEPの有効期間はどれくらいですか。
A. 雇用契約の期間に応じて1年から最長5年まで発行され、契約年数に応じて発行手数料も加算される仕組みになっています。役員として定款に任期が明記されている場合は、その任期が有効期間の上限になることがあります。
Q. 9Gビザ申請中に一時帰国はできますか。
A. 可能ですが、申請中の出国には事前確認が必要な場合があり、再入国許可(Re-entry Permit)の有無によって対応が異なります。出国前に必ず申請を依頼している現地代理人または弁護士に確認することをおすすめします。
まとめ
9Gビザの取得は、AEP→PWP→9G→ACR I-Cardという順序、2026年6月以降のDOLE本部一元化による審査の変化、そして2025年規則による厳格化という3つの要素が絡み合う、決して単純ではない手続きです。
PEZA登録企業であれば47(a)(2)ビザという代替ルートも検討の余地がありますが、いずれの場合も、制度の最新動向を踏まえたスケジュール管理が成功の鍵になります。
フィリピン進出に関するご相談はAXIA Philippinesへ
就労ビザやAEPの手続きは制度変更が頻繁で、自社だけで最新情報を追い続けるのは容易ではありません。AXIA Promotion & Trading Philippines Corporationでは、日系企業のフィリピン市場参入をテストマーケティングから法人設立、現地での実務サポートまで一貫して支援しています。
駐在員の就労ビザ手続きを含めたフィリピン進出全般について、まずはお気軽にAXIA Promotion & Trading Philippines Corporationへお問い合わせください。
出展
・DOLE Department Order No. 248, Series of 2025(全文PDF):https://bwc.dole.gov.ph/wp-content/uploads/2026/04/Department-Order-248-25-New-Rules-and-Regulations-on-the-Employment-of-Foreign-Nationals-in-the-Philippines.pdf
・Crown World Mobility「Immigration weekly update: June 18, 2026」:https://www.crownworldmobility.com/insights/immigration-weekly-update-june-18-2026-2/
・Newland Chase「Philippines Transfers All AEP Processing to DOLE Central Office」:https://newlandchase.com/philippines-transfers-all-aep-processing-to-dole-central-office/
・Triple i Consulting「Alien Employment Permit Philippines: DOLE Order 248 Explained」:https://www.tripleiconsulting.com/alien-employment-permit-philippines-dole-order-248-explained-2025/
・Kittelson & Carpo Consulting「47a2 (PEZA) Visa in the Philippines」:https://kittelsoncarpo.com/philippine-visas/47a2-peza-visa/
・在日フィリピン大使館領事部 公式案内:https://tokyo.philembassy.net/ja/consular-section/services/visa/
・ジェトロ(日本貿易振興機構)フィリピン投資・就労制度ガイド:https://www.jetro.go.jp/world/asia/ph/invest_05.html

執筆者
金田 大樹
鉄鋼専門商社や株式会社ネオキャリアのフィリピン現地法人での勤務を経て、リサーチ事業にて起業。中堅~大手の調査会社やコンサルティング会社のリサーチのプロジェクト管理を行った。その後、AXIA Marketing(アクシアマーケティング)株式会社を設立し、代表取締役に就任。フィリピン市場の成長を受けて、「AXIA Promotion & Trading Philippines Corporation」を立ち上げ。上場企業をはじめ、多くの企業の成長を「価値ある情報提供力」でサポートしている。
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