2026-07-16
ノウハウ
なぜ日本製品はフィリピンで信頼されるのか | フィリピンEC物流企業Inspire社インタビュー

フィリピンでEコマース事業を展開する上で欠かせないのが、フルフィルメントとバックオフィス業務を担う3PL(サードパーティー・ロジスティクス)パートナーの存在です。今回、AXIA Promotion & Trading Philippines Corporationは、創業1年で20社を超えるブランドの物流を支えるInspire E-commerce Solutionsにインタビューを実施しました。
同社の創業者兼CEOであるダーウィン氏に、フィリピン特有の物流課題から、自社開発プラットフォーム「Fusion」の強み、そして日本企業がフィリピン市場で成功するためのヒントまで、詳しくお話を伺いました。
- Inspire E-commerce Solutionsとは?フルフィルメント事業の概要
- フィリピン物流業界が抱える現実的な課題
- フィリピンEコマースの受注〜配送プロセスとSLA
- 変化するフィリピン物流トレンドとInspire社の独自性
- ブランドに贈る需要予測と開封体験の改善提言
- Eコマースフルフィルメント業務の全容と代金回収の仕組み
- 独自プラットフォームFusionが実現するチャネル統合
- フィリピンEコマースで伸びている商品カテゴリー
- アパレルの高返品率とフィリピンで売れる商品の特徴
- 日本企業がフィリピン参入でつまずくポイントとプラットフォーム戦略
- フィリピンで成功する日本企業のブランドポジショニング
- AXIA Promotion & Trading Philippines CorporationとInspire社の連携がもたらす価値
- フィリピン進出を目指す日本企業へのメッセージ
- Inspire社インタビューを終えて
Inspire E-commerce Solutionsとは?フルフィルメント事業の概要
Q1.まず最初に、Inspire E-commerce Solutionsの事業概要と、フルフィルメント事業の規模についてご紹介いただけますか?
Inspire E-commerce Solutionsは、成長中のブランドがフィリピンで事業を拡大できるよう、テクノロジーと、倉庫保管・フルフィルメントというサービスの両面から運営インフラを提供する会社です。昨年6月12日のローンチから、今年6月でちょうど創業1年を迎えます。
12ヶ月前に完全にゼロからスタートし、現在ではフィリピン国内だけでなく世界的にも最大級のブランドと取引しています。フィリピン最大級のブランドの一つであるDMD Skin Essentials、ブラジル発の国際企業Havaianas、さらにコカ・コーラのオンライン事業のフルフィルメントも手がけており、創業以来のポートフォリオは20社を優に超えています。ローカル企業から東南アジア全域のリージョナル企業、創業100年を超える老舗企業まで、取引先の幅は非常に広く、この12ヶ月で大きく成長しました。
フィリピン物流業界が抱える現実的な課題
Q2.フィリピンの物流業界の現実について、また3PL・企業・消費者それぞれの視点から直面している課題を教えていただけますか?
正直に言うと、現実はかなり過酷です。私はアメリカ出身でフィリピン在住11年になりますが、この市場はさまざまな理由から間違いなく最も難しい市場の一つです。第一に、代金引換(COD)がここでは非常に一般的であること。第二に、フィリピンが何千もの島々からなる群島国家であることが、物流を本来必要である以上に難しくしています。
先進国や群島ではない国々と比べ、フィリピンのEコマース市場はまだ発展途上で、顧客への配送に2週間かかることも珍しくありません。フィリピン人の買い手のマインドセットに適応することは、3PLにとってもブランドにとっても不可欠です。
また、群島であるがゆえに商品を飛行機や船で運ぶ必要があり、輸送コストの多くを消費者が負担することになります。消費者は高いコストを払い、受け取りまでの待ち時間も長くなる。この点で、3PLと消費者は同じ課題を共有していると言えます。
フィリピンEコマースの受注〜配送プロセスとSLA
Q3.注文の受領から消費者への配達までの全プロセスと、現在の実際のタイムラインについて教えてください。
フィリピンのEコマース取扱量の多くはShopee、Lazada、TikTokといったマーケットプレイスから生まれており、各社は非常に厳しいSLA(サービス・レベル・アグリーメント)を課しています。注文発生から一般的に24時間以内に、3PLは商品を出荷し配送業者に引き渡さなければなりません。
このSLAを満たせなければ、マーケットプレイスはブランドのストアにペナルティを課し、最悪の場合はBAN(出店禁止)することもあります。
だからこそ私は、ブランドに対して「どの3PLを選ぶかには十分注意してください。私たちはブランドの延長となる存在です」と伝えています。プロセスの面では、Inspireは地域全体で見てもサービスを軸に自社でテクノロジーを構築した数少ない3PLの一つです。
多くの3PLが倉庫・フルフィルメント企業としてテクノロジーを「利用」しているのに対し、Inspireは「テクノロジー企業ファースト」という発想で、自社開発プラットフォーム「Fusion」を通じて、Lazada・Shopee・TikTok・Shopifyなど全チャネルを横断して在庫やピッキング・パッキングの作業をシステムがガイドする仕組みを構築しています。
変化するフィリピン物流トレンドとInspire社の独自性
Q4.この1年間で物流のトレンドはどのように変化していますか?また御社のアプローチは、従来の物流手法や他社とどう違うのでしょうか?
フィリピンはまだ市場として成熟しておらず、変化の速さに合わせて調整できる柔軟性が3PLには求められます。近年のEコマースGMV(流通取引総額)の最大の牽引役の一つがライブコマースです。
私たちが他社と違う点は、まず「オペレーターファースト」であることです。私自身、以前は自分のブランドを運営していた経験があり、ブランドの視点からサービスを設計しています。
フィリピンの3PLは大きく「従来型(ペンと紙で運営)」「既製品(オフザシェルフ)型(他社プラットフォームを利用)」「自社構築型」の3つに分かれますが、Inspireはプラットフォームとサービスの両方を自社で構築した数少ない存在です。
テクノロジーを所有しているからこそ、絶え間なく変化する市場のニーズに合わせてプラットフォーム自体を柔軟に変更できる、これが急成長の理由だと考えています。
ブランドに贈る需要予測と開封体験の改善提言
Q5.「この会社は物流管理のやり方を改善できるのでは」と感じるリクエストのタイプはありますか?どうすれば顧客からのリクエストが十分に計画され、実行しやすいものになるとお考えですか?
多くの大手ブランドと取引していますが、問題はいつもだいたい同じです。在庫の適切な需要予測、季節性に基づく在庫配分、そして顧客理解の不足です。私たちのプラットフォームにはバーチャルバンドルやGWP(購入特典ギフト)のような機能を用意し、フィリピン・東南アジアの消費者が好むゲーミフィケーションされた体験を提案しています。
もう一つ大きいのが「開封体験(アンボクシング体験)」です。多くのブランドは、顧客が商品を受け取る瞬間の体験を意識できていません。Appleのように、サンキューカードを添える、開封体験をカスタマイズするといったちょっとした心遣いだけで、顧客の心を掴み、生涯にわたる長期顧客になり得ます。とはいえ、これらはあくまで提案であり、実践するかどうかはブランド次第です。
Eコマースフルフィルメント業務の全容と代金回収の仕組み
Q6.注文処理、梱包、在庫管理から配送、代金回収、返品対応まで、Inspireが担う業務の全容と、特に重要だと思うプロセスを教えてください。
スピードも重要ですが、それ以上に正確性が重要です。顧客が期待通りの商品を正確に受け取れるようにすることが最優先で、ブランドから在庫管理やピッキング・梱包の負担を取り除き、顧客が楽しめるカスタマージャーニーを作ることが私たちの専門領域です。
なお、現金回収は3PLの業務ではありません。ラストマイル配送はクーリエ(配送会社)が担い、彼らがマーケットプレイスと連携して代金を回収し、マーケットプレイスが手数料を差し引いた上でブランドに支払う仕組みになっています。私たちが重視しているのは、注文が正確にピッキング・梱包・出荷され、すべての販売チャネルで在庫が正確に保たれることです。
なお、アウトソーシングのタイミングも重要で、社内運用で限界を感じたブランドが専門家に任せるべきだと気づくケースも多く見られます。
独自プラットフォームFusionが実現するチャネル統合
Q7.自社開発のFusionシステムは、複数チャネルにわたる業務の管理と最適化にどのように役立っているのでしょうか?
Fusionは、ブランドの事業全体をつなぐ「コマンドセンター(司令塔)」として機能します。Lazada、Shopee、TikTok、Shopify、Zaloraなど複数チャネルで販売するブランドは、本来であればチャネルごとに在庫を手動で調整しなければなりません。Fusionはこれらすべてを一つのプラットフォームに集約し、あるチャネルで注文が発生すると他チャネルの在庫も自動的に同期されます。
「Fusion」という名前は、すべてのチャネルを"fuse(融合)"させることに由来しています。チャネルが増えるほど、個別管理では立ち行かなくなるため、このような統合管理システムの重要性が増していると感じています。
フィリピンEコマースで伸びている商品カテゴリー
Q8.物流・フルフィルメント業務の観点から、フィリピンで物量が増加している商品カテゴリーはありますか?日本製品を含め、国ごとのトレンドの違いも教えてください。
Eコマースでは、ビューティー(美容)が圧倒的なナンバーワンカテゴリーで、2位はアパレル、3位はエレクトロニクスです。プラットフォーム別ではShopeeが市場の約55%、TikTokが約30%を占め、2010年代半ばから存在するLazadaを短期間で追い抜きました。
従来型小売でもアパレルとホームグッズが主要カテゴリーです。ビューティーとコスメティクスの強さはフィリピンに限らず、タイ、マレーシア、ベトナムなど東南アジア全域で共通する傾向です。
日本製品について際立ったカテゴリーは特定できませんが、「日本製」と聞いて誰もが思い浮かべるのは「高品質」という共通認識です。多少プレミアムな価格であっても、それに見合う品質が得られると認識されています。実は、AxiaとKokuyoがInspireにとって初めての日本ブランドで、現在2社目の日本ブランドとも交渉中とのことです。
アパレルの高返品率とフィリピンで売れる商品の特徴
Q9.ご経験に基づいて、返品やクレームを受けやすい商品に共通する特徴はありますか?また、フィリピンで最も成功しやすい商品タイプについても教えてください。
返品率が最も高いのはアパレルで、世界的に見ても約27%に達します。サイズ感が着てみるまで分からないこと、製造国によってサイズ基準が異なることなどが理由です。実店舗でのアパレル販売が消えない理由も、まさにここにあります。
一方、フィリピンで成功しやすいのは、外見にインパクトを与える商品です。ビューティーがナンバーワンカテゴリーであることからも分かるように、肌を白く見せる、シワを目立たなくするなど、身体的な魅力を高める商品はよく売れる傾向にあります。
日本企業がフィリピン参入でつまずくポイントとプラットフォーム戦略
Q10.日本企業がフィリピンでEコマース事業を立ち上げる際、バックオフィス業務でよくあるつまずきは何でしょうか?また御社はその課題にどう対処していますか?
よくある課題は、プラットフォームごとに異なる顧客層・顧客行動を理解せず、すべてのプラットフォームを同じものとして扱ってしまうことです。Shopeeはより検索意図型で低価格志向、TikTokはコンテンツ主導型というように、プラットフォームごとの性質は大きく異なります。全チャネルへの同時展開はお勧めせず、まず自社ブランドに最も合うチャネルから始め、そこで学んでから他チャネルへ展開することを推奨しています。
Inspireでは、オペレーターとしての視点からブランドと密にコミュニケーションを取り、注力すべきポイントを具体的に助言しています。実際にAxiaが施設を訪問した際も、現地出身でなければ知り得ない市場戦略について情報共有を行いました。テクノロジーとサービスだけでなく、こうしたインサイト(洞察)の提供こそが、Inspireが取引ブランドを支援する方法です。
フィリピンで成功する日本企業のブランドポジショニング
Q11.大量出荷を扱ってこられたご経験から、フィリピン市場で成功しやすい日本企業や商品カテゴリーの特徴に、何か傾向はありますか?
日本から来た、適切にポジショニングされた商品であれば、特定のカテゴリーに縛られることなく大きなアドバンテージを持ちます。「日本製である」という事実だけで、消費者からの信頼性・信用が自動的に得られるためです。
フィリピンでは顧客の信頼を勝ち取ることが最も難しいとされる中、日本製品はすでにそのアドバンテージを手にしています。あとは、その信頼にどう応え、ブランドをどうポジショニングするかが鍵になります。
AXIA Promotion & Trading Philippines CorporationとInspire社の連携がもたらす価値
Q12.Axia PromotionとInspireのパートナーシップは、日本企業にどのような価値を生み出すとお考えですか?
単なる倉庫・フルフィルメントのパートナーではなく、「ブランドパートナー」がついていると実感してもらえることに尽きます。市場への理解、やるべきことへの理解、そしてブランドが持っていない視点を提供することが、私たちの価値提案の中心です。
取引先の創業者から直接相談の連絡が入ることも珍しくなく、Shopeeなど各マーケットプレイスの出身者で構成されたチームが、業界を知り尽くした立場からサポートしています。ピッキングや梱包、テクノロジーの枠を超えて期待以上のことを実践できる点が、私たちの強みだと自負しています。
フィリピン進出を目指す日本企業へのメッセージ
Q13.最後に、フィリピンへの事業展開を検討している日本企業へのメッセージをお願いできますか?
市場を理解し、消費者行動を理解し、自社の商品とブランドをどうポジショニングするかを理解することが重要です。しかしそれ以上に大切なのは、この旅路を共に歩むパートナーを選ぶにあたって、十分な調査・検証(デューデリジェンス)を行うことです。私自身、ブランドと話す際は必ず競合他社の選択肢も提示しています。実際に他社とも話してもらうことで、違いを実感してもらえると考えているからです。
価格の安さだけでなく、Eコマース市場で自社ブランドをキープレイヤーとしてポジショニングする手助けをしてくれる、包括的なサービスを提供できるパートナーかどうかに注目してほしいと思います。
フィリピンは1億1,000万人が、日本の高品質な製品を求めている成長市場です。安価な汎用品から品質を求める消費者へと市場がシフトしつつある今こそ、その製品をフィリピンに届けるときだと考えています。
Inspire社インタビューを終えて
今回のインタビューを通じて見えてきたのは、Inspire E-commerce Solutionsが単なる倉庫・配送業者ではなく、自社開発プラットフォーム「Fusion」を軸にした「テクノロジー企業ファースト」の3PLであるという点です。
創業者自身がブランドオーナーとしての経験を持つことから生まれる「オペレーターファースト」の視点は、SLAの厳格な遵守やチャネル横断の在庫管理にとどまらず、需要予測や開封体験といったブランド運営そのものへの提言にまで及んでいます。
特に日本企業にとって示唆的なのは、「日本製」というブランドがフィリピン市場においてすでに強い信頼を獲得しているという指摘です。品質面でのアドバンテージを活かすためには、どのプラットフォームから参入し、どうポジショニングするかという戦略設計が欠かせません。
AXIA Promotion & Trading Philippines Corporationは、こうした現地市場の理解に長けたInspireのようなパートナーと連携することで、日本企業がフィリピンのEコマース市場においてスムーズかつ着実な事業拡大を実現できるよう、今後も支援を続けてまいります。

執筆者
金田 大樹
鉄鋼専門商社や株式会社ネオキャリアのフィリピン現地法人での勤務を経て、リサーチ事業にて起業。中堅~大手の調査会社やコンサルティング会社のリサーチのプロジェクト管理を行った。その後、AXIA Marketing(アクシアマーケティング)株式会社を設立し、代表取締役に就任。フィリピン市場の成長を受けて、「AXIA Promotion & Trading Philippines Corporation」を立ち上げ。上場企業をはじめ、多くの企業の成長を「価値ある情報提供力」でサポートしている。
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